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ファイル1 第3話:夜の潜入、不法投棄の“秘密”と迫る足音

last update Last Updated: 2025-12-16 20:00:52

 俺達は、車に乗って三時間。目的地の古民家に近い山の麓までたどり着いた。

 そもそも薫は大学で民俗学を専攻していた。フィールドワークを行う傍ら、怪談じみた話を聞くうち、実際に見てみたくなったという話を以前聞いたことがあった。

 しかし、この件では例の配信者が行方不明になっており、安全とは言い難く、俺としては連れて行くことに気が進まなかったが、頑としてついていくという薫に根負けしたのだった。

 それでも俺は道中に何度か、薫に家に帰るよう促したり、なぜそこまでオカルト紛いの事件を追いかけたがるのか聞いてみたりした。

 しかし、返ってきた答えは「先生のお役に立ちたいんです」とか、「私、色々と準備してきましたから」といった答えではぐらかされるばかりだった。

「さて、着いたぞ。……ひょっとすると、この車って、例の配信者のものか?」

 俺は自分の車を止めた近くにある車のナンバープレートを見た。練馬だった。

「そうかもしれません」

「この車も気になるが……それより、このタイヤの跡は何だ?」

 道には、軽トラックなどではない、もっと大型の車が何台も通ったような跡がくっきりと残っていた。

「この山で、何か採掘でもしてるんでしょうか?」

「さあな、でも向かう道は同じようだ。とにかく古民家へ行ってみよう」

「ここが……例の古民家か」

 トラックのタイヤの跡は、この民家の前を通って続いていた。薫は古民家やその周りをスマホで撮影していた。

「あのう、どちら様ですか?」

 古民家の引き戸がいつの間にか開いており、そこに男が立っていた。男は穏やかな表情を浮かべつつも、どことなく隙のない雰囲気を漂わせていた。

 相手がどういう筋のものか不明なので、俺はとりあえずカマをかけてみることにした。

「ああ……いえ、この付近で動画配信をやってる最中に行方不明になった者がいましてね、親御さんから探してほしいと頼まれまして……」

 男は表情を変えることもなく答えた。

「いえ、そういった方は見ていないですねえ。ここらには似たような民家が多いので、どこか別の家じゃないですかね?」

「……なるほど、ありがとうございました」

 俺は薫に「帰るぞ」と声をかけ、その場を立ち去った。

「先生、これからどうするんですか?」

 薫は車に戻った途端に、聞いてきた。

「少し暗くなるまで、昼寝かな」

「もう! 真面目に考えてください。あの人、あからさまに怪しかったじゃないですか!」

「真面目に答えてるだろうが」

 俺は欠伸をしつつも、続けた。

「恐らく、あの道の先に見られたくないものがあるんだろ」

「まあ、そんな雰囲気でしたね」

「あの民家は、おそらく見張り小屋なんだろ。至る所にカメラを仕掛けているってわけでもなさそうだから、見つからないように山道を進めば、隠してるものに行き着くんじゃないか? まっ、ここにいたら、さっきのオッサンにイチャモンでもつけられそうだ。だから、目立たないところまで移動するぜ」

 その日の日が沈む頃、俺は「ついて行きます」と言う薫をなだめすかし、単独で昼間に車を止めていた場所まで戻ってきていた。

 俺は近くのホームセンターで買ったヘッドライト付きのヘルメットを被り、山道を登っていた。フクロウや虫の鳴き声でこの季節の夜の山中はなかなか賑やかだ。しかし、ヘッドライトの明かりが照らす狭い範囲以外は、何も見えない完全な闇だ。ヘッドライトの光が届かない闇が、時折、まるで生き物のように自分を飲み込もうとしている感覚に襲われる。

 暗い上に、起伏の激しい地面と、落ちている木々や折り重なった葉が、足の踏み場の判断を誤らせる。歩きにくいこと、この上なかった。

 さらにクマに遭遇しないよう祈りながら、時折、ガサリと獣が草むらを分ける音に心臓が跳ねる。

 暗い山道と格闘すること、二時間。俺は息も絶え絶えになりながら、山の中腹、有刺鉄線で覆われた不法投棄の現場にたどり着いた。

「……はあ、はあ、……なるほどな、連中が知られたくない秘密がこれか……」

 ヘッドライトの明かりに反射して鈍く光るそれを見て、俺は内心、肩透かしをくらっていた。

 廃棄された太陽光パネルの山。怪異でもなんでもない、ただのデカいゴミだ。

 やれやれ、薫には悪いが、やはり俺の思った通り、人間の犯罪だったな。

 ……しかし、そうすると、あの“声”は一体?

 そんなことを考えていると、俺の身体が、懐中電灯の灯りに照らされた。

「誰だ!」

 まずい! 見つかった。この足で逃げ切れるのか?

 俺は、素早くスマホで薫へ電話をかけ、通話状態のままポケットにねじ込むと、両手を上げた。

「俺は怪しいもんじゃない! ちょっと散歩していただけだ」

「ふざけるなよ、てめぇ。こんなところに散歩しに来るやつがいるか!」

 どうするか……相手は一人か?

「……おっと、逃げようなんて考えるなよ」

「!」 その昼間に聞いた声は、俺の背後から聞こえた。

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